2021年08月13日

大人の能力(努力の方向性)

 ケアマネジャーという資格は更新制ということもあり比較的研修の多い職種です。国が目指す地域包括ケアシステムが上手く機能していないのは個々のケアマネジャーの能力が低いからだとの事で、その底上げをする必要があると考えているようです。しかし、いい歳になった私は研修をすれば能力が向上するという考えを今一つ信用することが出来ない。

 能力というものを三角形的にイメージし、底辺を資質、努力を垂直方向へのベクトルとして、それを面積として考えた場合、仮に資質10の者が2努力した場合、能力は10である。資質1の者が20努力した場合、能力は10である。だが、努力すれば報われるというのは限られた範囲の中での話で現実はそれ程甘くはない。底辺が大きくなければ、いくら努力を積み上げても高さも形成されない。身体動作を伴うスポーツを考えれば明白である。日本人の場合どんなに努力しても100mを9秒台で走れた人間は4人(そのうち一人はハーフ)だけである。資質の無い者がどんなに努力しても能力が高まることはない。それどころかスポーツマンやピヤニストなど資質のある者が努力のし過ぎでイップスやジストニアを発症し、資質が台無しになってしまう事もあるのである。

 幼児が母語を習得していく過程で努力感はあまりないと思う。何かの能力を習得していく過程で努力感が募ってくるのは恐らく、資質上の限界点が見えて来ているという事だろう。真正の能力向上は努力感が苦にならない(充実感に満ちている)時に形成されるもののように思う。多くの日本人が中高生という生物学的には成長期にある時期に英語を学習しても実用レベルまで習得することができないのは、言語習得という資質に関しては10代半ばで既に減衰してしまっているという事だろう。

 垂直方向での能力の向上は生物学的成長がほぼ完成する二十歳前後までに形成されたものがその人のベースで、それがその後の人生で上昇したとしてもごくわずかだと思う。成長後の大人に要求されるのは経験による成熟という水平方向的な広がり、イメージとしては三角形的なものから台形的になって行く感じだろうか。その者の持つベースに応じたレベルで、いろいろと経験し幅が広がって行き社会的能力が身に付いていく訳で、常識的に考えれば能力差は広がる事はあっても縮むことは無い。

 坂東玉三郎が以前、師匠から受ける注意は一回だけ、その時その注意の意味を理解できなかったとき二度と注意はしてくれませんと、言っていたがそれが大人の指導というものだろう。厳しさというより合理的判断なのである。注意の内容の重要性を感じ取る資質が受け手に無い場合、いくら注意しても時間の無駄なのである。要するに資質がないのである。自分の資質に応じた範囲内でしか人は成長できい。それだけの事である。(逆も真で、自分の資質を超えて人を指導することは出来ない。指導される側の資質が勝っている場合、指導者にそれを受け入れる度量がないと、威圧という手段をとることになる。)

 中年以降に能力向上の伸びしろなどないであろう。中高年を対象とした能力開発などと言ったものはフィクションであって、現実には能力の減衰が始まっている。もはや指導の対象者ではないのである。自然は冷徹である。中高年に必要なのは能力向上にむけた無駄な努力ではなく、どの様に自分自身を経年変化させていくかだと思う。自分を変えられるのは自分だけである。私が思うに中高年以降に大切なのは心を如何にしなやかにして行けるかだと思う。社会的成功を収めても晩年になって重度の心の硬化を発症し人間的にはまったく魅力のない高齢者もいれば、例え認知症になっても人間的に魅力的な高齢者も結構いるものである。

 心をしなやかにしていくにはどうすればいいのか。「初々しさが大切なの 人に対しても世の中に対しても 人を人とも思わなくなったとき堕落が始まるのね」という茨木のり子の言葉が示唆に富んでいると思う。「自分を大切にするように、隣人を大切にせよ」「たとえ敵対する相手でも人として大事にしろ」というマルコの言葉を思い出す。人は人を人と思うレベルに応じて人格が陶冶され、人は人を人と思わなくなるレベルに応じて心が硬化し醜悪になって行く。

 中高年になり若い時に比べ不機嫌になることが増えたり、他人を許容できなくなってきた場合には、自分の能力以上の事に手を出し過ぎていないかどうか、自分の生き方に何か問題がなかどうか、自分自身の退行から眼を逸らさず冷静に見つめ直す必要があると思う。人を人と思うゆとりを失わない為に。

ケアプランふくしあ  木藤


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Posted by ふくしあ-セブンスマイル at 11:24│コメント(0)
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